双六岳〜三俣蓮華岳〜笠ヶ岳
2006.7.30〜8.2
(前夜発)
コースタイム
  30日 新穂高温泉5:10⇒わさび平6:50⇒鏡平(11:20〜12:00)⇒弓折岳鞍部13:00⇒双六テント場
       14:30
  31日 双六テント場6:30⇒双六岳8:00⇒三俣蓮華岳9:30⇒三俣山荘10:30⇒鷲羽岳11:20⇒双六テ 
       ント場15:10
   1日 双六テント場5:30⇒弓折岳6:50⇒抜戸岳10:40⇒笠ヶ岳山荘12:30
       笠ヶ岳山頂⇔山荘(往復30分)
   2日 笠ヶ岳山荘往復30分 
       笠ヶ岳山荘6:10笠新道分岐7:20⇒笠新道登山口11:10⇒新穂高温泉12:00

第1日目(30日)
    
以前から端正な笠ヶ岳、たおやかな双六岳は憧れの山だった。同時に二つの山を歩ける、7
時間の急登の不安を考えることはズーッと後の話だった。しばらく山歩きから遠ざかっていた
私は申し込みしてから何度も地図と睨めっこし、累積標高1600m、距離13km、果たして歩
き通せるかどうか。
左俣林道を行く同行の男性二人はテント泊、軟弱者の私は小屋泊まりだが、荷物はなるべく
軽量にした。
林道脇のブナ林に樹齢200年の巨木と対面した時、その生命力の強さに叱咤激励される思い
だった。5月に夫が永眠してから虚脱感、情緒不安定の毎日だった。こんな状態がいつまで続
くのだろうか。そんな時この山行を目にして、むらむらと山への郷愁が広がった。
「私は一人でもちゃんと生きてゆくから心配しないで、大丈夫だから」と夫に最後にかけた言葉
だった。一日でも早く自分らしい生活を見つけなければ夫に言い訳が立たないではないか。
この山行を私の残りの人生の弾みにしたい。私の歩む足取りはいつもと違っていた。

今年は例年にない雪が多かった為か、大ノマ乗越からの大規模な雪渓に圧倒される。紺碧の
空、萌黄色のダケカンバ、白い雪渓の絶妙なコントラスト、次々に現れる景色は一幅の絵のよ
うに感動を与えてくれる。冷たく清らかな秩父沢の水はまたも夫を思い出させた。3月頃だった
ろうか食欲のない夫は「山の氷柱から落ちる水は旨いだろうなぁ、今度山に行ったら汲んでき
てくれ」と言ったが、その頃は夫の容態が悪く凍るような山は私は敬遠せざるを得なかった。


  

次第に登山道は傾斜を増し、同行の福田さん、中野さんの足は重そうで遅れ気味になり、息づ
かいは荒くなってきた。今が最盛期のキヌガサソウ、サンカヨウの白い花が疲れを癒してくれ
る。鏡池に映る槍、穂高のシルエットを期待したが生憎とその辺りはガスに包まれて、残念な
がら見ることは出来なかった。
 
 

            鏡池
         
            

           キヌガサソウ 
       

      サンカヨウ
    
鏡平小屋で昼食を済ませ、そこから更に弓折岳分岐までは急斜面が続く。イワカガミ、キンポ
ウゲ、アオノツガザクラなど可憐な花たちがお出迎えだ。かなり歩いても直下に鏡平小屋の赤
い屋根が見える。

ようやく弓折岳分岐に到着。明後日はここまで戻り、笠ヶ岳に行く予定だ。この鞍部はお花畑
でチングルマ、シナノキンバイ、ハクサンチドリ、グンナイフウロ、ダイモンジソウが彩り鮮やか
に目を楽しませてくれる。ここからは緩やかなアップダウンが続き、歩きやすいお花畑のプロム
ナードだ。やがて、目前に黒部五郎岳の雄姿が現れた。感動しているまもなく、双六小屋とテ
ン場の華やかなテントが、その背後に鷲羽岳と水晶岳が姿を見せた。歩き出して9時間の今日
の行程を私は疲れ知らずで終わることが出来た。

   
     弓折岳分岐バテバテのリーダー              緩やかな尾根道のアップダウン

      
   ミヤマキンポウゲ               ダイモンジソウ              ハクサンチドリ

 テント場で二人と別れ、私は一人小屋へ急ぐ。女性ばかり10人部屋1人1枚の布団でゆっくり
と眠れそうだ。単独山行の平井さん、広島からの女性3人組は「私たちは老人手帳を持ってい
るのよ」と自慢そう?皆2泊目3泊目とだと言う熟年女性の強気なパワーに圧倒される。


    
    ハクサンイチゲ              コバイケソウ             イチゲととシナノキンバイ

    
    ミヤマリンドウ                クロユリ                トモエシオガマ

     
      不意に現れた黒部五郎岳               鷲羽岳と水晶岳、双六小屋とテン場

第2日目(31日)
今日は休養日、双六岳と三俣蓮華岳へ散策だ。小屋の背後からのハイマツ帯の急登をゆっく
りと行く。数歩ごとに槍ヶ岳、穂高連峰が次第に大きくせり出して来る、山頂手前のピークで
360度の大展望に私たちは有頂天になり山座同定に余念がない。待てよ待てよ山頂はまだ先
だよ。たおやかな尾根に絨毯のようなハイマツを渡る風は冷ややかで、高山ならではの景観
はここまで来られた者でしか味合うことが出来ない。右に槍ヶ岳、穂高連峰を前方に黒部五郎
岳はますます大きく、薬師岳、そして明日の笠ヶ岳へ続く稜線が見渡せる。真っ青な空に一筋
の白い線、飛行機雲がくっきり、「ウヌッ!明日の天気は雨?」双六岳の展望は言うまでなく黒
部五郎岳、薬師岳へ続くなだらかな北の俣岳などが圧巻だ。

    
 
 
      後方に槍、穂高連峰                  双六岳周辺
 

三俣蓮華岳からは4年前裏銀座縦走の6日間の懐かしい峰々が姿を現した。往時雨中行軍の
水晶岳、ワリモから鷲羽岳の姿は感無量だった。薬師岳の下に平坦な雲の平が大きく手を広
げている。はるかに剣岳、立山、目を転じれば燕岳、大天井岳、常念岳。私と中野さんは目前
にドーンと大きく聳える鷲羽岳まで足を延ばすべく、急ぎ山頂を後にした。リーダーは?と言え
ば、山頂で出会った可愛子ちゃんとツーショットでゆっくりと後からやたらと楽しそうだ。「先に行
くでー。」
  
       三俣蓮華岳山頂

三俣山荘に到着すると気まぐれな私はすっかり気が変わってしまった。4年前、雨の中ここで食
べたケーキの味を思い出した。青空の下でのんびりと槍を仰ぎながらケーキを食べるのもい
い。奮発してケーキセット1000円を注文し、ベンチでゆとりの時間。意欲的な中野さんは一人
鷲羽岳に向かう。遅れて到着したリーダーはビールを一気に飲み、ベンチでお昼寝タイム。時
間は止まったかのような静かな贅沢なひとときを過ごす。3人が3様の時間を楽しむ。穂高連峰
は厚い雲に覆われたがさすが槍ヶ岳は一片の雲をも寄せ付けず、毅然と聳えていた。
  

  三俣蓮華から鷲羽岳と水晶岳
  
三俣山荘のくつろぎのひととき
    
  

      鷲羽岳と水晶岳  赤い屋根は三俣山荘
    ケーキ&コ−ヒー
  
     
左が黒部五郎岳、右が薬師岳

    健脚な中野さんはあっと言う間に鷲羽岳を往復して満足そうだ。双六小屋まで帰路は三俣
蓮華の中腹から巻き道コースを選んだ。雪渓とお花畑が次々に現れ、雲上の楽園だ。先日、
書道の先生から山好きの私に雅号"溪芳"を頂いた。先生はこの名は山にいっぱい花が咲い
ている意味が込められて言われたが、なんとなくピンとこなかった。けれど目の前に広がる岩と
雪渓、その周りに健気に咲く高山の花たちの饗宴、まさに"溪芳"にぴったりだった。すっかり
私が気に入ってしまったのは言うまでもない。"溪芳"の名に恥じないよう書も精進しようと山の
花たちに励まされた思いだった。稜線漫歩は時々雪渓を横切り、小さな沢を歩き、また硫黄岳
の急峻な赤味を帯びた岩肌は午後の陽射しを浴びて、異様な凄味さえ感じさせる。


             
         硫黄尾根                           丸山の雪渓

       
 
小屋に到着後、今夜はビールを止めようと思いきや、北海道からの9人組みがガス切れで焼
肉が出来ない。そこでリーダーがガスを貸してあげたそのお礼に匂いだけでなく、(昨夜は匂い
だけを頂いたのだ)熱々の柔らかなラム肉とギョウジャにんにくを頂いた。思いがけない酒のつ
まみの登場にやはり飲もうーッと。久々のご馳走にビールは旨いのなんの!最高!
因みに双六小屋連泊の私は今夜からは小屋素泊まりに変更した。夕食の混雑を避け外のベ
ンチでカレーライスを注文し、テント組二人と団欒のひとときを過ごせた。

第3日目 (8月1日)
 朝4時頃、小屋のトタン屋根を叩く雨音で目が覚めた。昨日の飛行機雲の予感は的中した。
テントの二人が気になって寝ていられない。薄暗い中、テント場に走った。二人は既に目覚め
ていた。二人は雨の中のテント撤収を経験し、貴重な体験をした様子だ。
雨の降る中、外のベンチで中野さんからお煎餅のようなメロンパンを頂き、立ち食い。なんだ
か侘しい食事だが山で贅沢は禁物。雨具を着用し、予定通り私たちは笠ヶ岳へ向かうことし
た。生憎の空模様は私たちに二つのプレゼントをしてくれた。一つはハイマツや雪渓に遊ぶ雷
鳥の親子連れに再三再四出会ったのだ。それからもう一つは山頂へ到着してからだった。す
っかり雨は上がり、この頃から私たちと一緒に歩くことになった単独山行の女性吉田さんが登
場する。彼女の歳は55歳でいつも単独で、海外トレッキングも一人で出かけるという兵(ツワモ
ノ)だ。顔はとてもそんな風には見えない。美形の彼女にリーダーが親しく声をかけるも無理か
らぬ話である。

  

   


途中の抜戸岳はガラガラした瓦礫の山、本日のリーダーはすいすい軽やかに、吉田さんと私
は瓦礫を這いずり上がった。
      

生憎の天気で展望はいまいちだったが、笠ヶ岳に続く稜線が次第にはっきりし、時折、ガスの
切れ間から笠の山頂が見え出した。秩父平でコーヒータイム、アルプスの山に溶け込みながら
飲むコーヒーはまた格別だ。

  

4人で笠ヶ岳山荘に到着したのは12時を回っていた。取り敢えず4人で乾杯。その後はストーブ
を囲んでウトウトしてしまった。リーダーから天気が回復しそうだから山頂へ行くぞ!の一声に
大慌てで山頂へ向かった。山頂に二つ目のプレゼントが待っていた。播隆上人と同じくブロッ
ケン現象を見られたのだ。初めて体験する怪奇なこの現象に私と中野さんは酔いしれてしまっ
た。小屋に戻り、再び4人で乾杯、福田さんの餅入り味噌ラーメンはなかなかの味。このラーメ
ンは小屋の素泊まりに欠かせない一品になりそうだ。その夜の小屋はラッキーにも私たちは蚕
だなに一人一部屋で大の字に寝ることが出来た。
  
        

     
     

第4日目(8月2日)
 朝食前にご来光を眺めに再び山頂に駆け上がる。笠ヶ岳の山頂がこんな瓦礫の山とは想像
出来なかった。やがて槍ヶ岳の左の雲が茜色に染まり、ぽっかりと真っ赤な太陽が顔を見せ
た。感動の一瞬。この太陽と共に私のこれからの一歩が始まる。アルプスの峰々よ!ありがと
う!私は夫の分まで前向きに強く生きていく事を誓った。
  
        輝かしい夜明け                        雷鳥の親子

    
        吉田さんと記念の一枚                 笠ヶ岳山頂と肩に小屋
  
笠新道から新穂高温泉までの下りは長く長く急峻な道が続く。杓子平から下りに弱いからゆっ
くり下りると言う吉田さんと別れ、私たち三人はふら付き始めた脚を励ましながら、4日振りに
入る温泉へ急いだ。奇遇にも中崎山荘の浴室で双六小屋で同室だった平井さんと喜びの再
会。彼女のお勧めの温泉は単純硫黄温泉は泉質も良く、空いていて最高でした。
 



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