みちのくの山


                                      日 時  2003.10.11〜13

明日はいよいよ南アルプス光岳へ、すべて準備は完了した。やれやれとテレビを点けると丁度
天気予報を報じていた。なんと、光岳に登り上げる日は雨マークに変っている。「うそッ!」と思
わず叫んでしまった。数日前から南アルプスのビデオを見て心はすでに昂揚し、南アルプスの
原生林に飛んでいたのだ。だが、すっかりその気持は萎えてしまった。南アルプスから予報晴
れマークの東北の山へ変更は夜7時を過ぎてからだった。  
  
         姫  神  山                                 
                                  2003.10.11
獣医師会館6:00〜1本杉登山口13:25〜8合目14:00〜山頂(15:00―15:00)〜登山口16:25
初日はまず、岩手山と対峙し秀麗な姿を見せ、気になる山の一つの姫神山だった。この山は
岩手山と早池峰山の恋の板挟みとなった山だそうで東北道から一際目を引く美しい女性的な
山である。
 一本杉登山口に到着したのは、午後1時を過ぎていた。車中に6時間余の体は、固まった状
態で足は重かった。これであの南アルプスの急登に耐えられただろうかと思いながら、杉林の
中の登山道を進んだ。しばらくして樹齢何百年と思われる杉の巨木を過ぎると、木の階段が続
いた。30分位で5合目に到着。そこで休憩していた神奈川の人に出会った。「あら、群馬から、
群馬にはいい山がたくさんあるでしょうに・・・」その目は(どうして、こんな遠くまで・・・)と語って
いた。そのグル−プは「明日は七時雨山へ」。ウム・・・ななしぐれ山かァ−いい響きの山だな
ァ、どんな山だろうかと興味深く聞いた。そこからは道の両側にブナ、ダケカンバの黄葉の美し
い林が続き、疲れを忘れさせてくれた。団体さんを含む登山者が続々と下ってきた。やはり、
かなりの人気の山と伺えた。柔らかな紅葉の林に見惚れているうち背後に岩手山が大きく迫っ
てきた。8合目を過ぎる頃、潅木と巨岩が現れて、歩きにくい道に変った。注意深くゆっくりと這
いずり上がったり、石を飛び越えたりすると山頂はすぐだった。
午後3時の山頂は人影もまばらだ。あたりの空気と時間はじっと静止したかのように展望を楽
しむに充分だった。なんとラッキーなことだろか。この時間に珍しく360度の大展望、岩手山、
八幡平、鳥海山、栗駒山、秋田駒ヶ岳、焼け石、虎毛山、はるか北に岩木山、八甲田、それに
双児峰の綺麗な七時雨山、南に早池峰山。東北の名だたる山並がずらりと顔を揃えて待って
いたのだ。
  
 翌日の山は鳥海か栗駒と迷ったが、この方面の予報は雨マークらしいので、山頂から見えた
美しい双児峰の七時雨山に決まった。七時雨山の情報を得るため盛岡市内の書店を求めて
さまようこと1時間。その夜は岩手山サービスエリアの片隅にテント泊。食材はばっちり用意し
てある。朧月夜に酔ったのか私はなぜか千鳥足。ベンチに落ち着かず煮込みうどんにプロの
腕を発揮?したのであった。                 
 
  七 時 雨 山               2003.10.12

岩手山サービスエリア6:45〜七時雨山荘7:30〜3合目8:15〜北峰9:10〜南峰9:30〜
北峰(9:50−1030)〜山荘着11:50



 七時雨山麓の風景
 
1日7回気象が変り、時雨れることが多い七時雨山。名前に惹かれて遠くから訪れる人が多い
と聞く。
登山口の七時雨山荘は、周りを山に囲まれてはいるが広々した高原にあった。山荘前に駐車
し、ゲートを抜けしばらく行くと、広大な牧草地が広がっていた。数えきれないほどの牛が放牧
され、のどかなみちのくらしい風景だ。その牧草地を30分程のんびりと牛になったような気分で
時間を忘れ、あたりの紅葉を楽しみながら歩いた。牧草地終着点が登山口の3合目だ。ここか
ら道はダケカンバやブナの落葉樹の美しい林に入った。急登だが、まわりの木々の美しさに目
を奪われて、足は絶好調だ。最近は山頂の展望はもちろんだが途中の樹林の見事さに深く感
動する。6合目を過ぎると、吹き上げてくる風が快い。ここからは木々はすっかり葉を落とし、
樹間から北峰が大きく望めた。
 一等三角点のある1060mの北峰に到着。もちろん昨日の姫神山が美しい三角推の姿で雲
海に浮かんでいた。南峰は、わずか3m高く、石祠があった。
 
さて、最終日の明日の山は何処にしようかとまず、天気予報と相談する。ところが明日は全国
的に雨模様だ。いくらか太平洋側が雨時々曇りだ。そこで釜石近くの300名山の五葉山に決ま
った。登山口近くに到着する頃は、すっかり日は暮れていた。途中で鹿の姿が車のライトに
度々浮かんだ、ホンシュウシカの棲息北限の地がこの五葉山だそうだ。赤坂峠の駐車場はと
っても広く水道、水洗トイレが完備。月夜の下に、テントを張り、今夜は餅入り雑炊と地場産の
ほうれん草のお浸し、サラダ等などに舌鼓。近くの山で鹿、コノハヅクの鳴き声が響いて深山
ならではの雰囲気だ。たなびく雲に月が明るく一句読みたいところだが、情けないが何も浮か
んでこない。
 
月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にあらねど
と、私の好きな百人一首のひとつを思わず呟けば

 奥山に 紅葉踏み分け 鳴くし鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき
     と、珍しく酎ハイに酔う椛沢さん 
山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も 枯れぬと思えば
     そして、今夜もご機嫌な水村さん

 広い山中の駐車場は誰に気兼ねなく、時々雲がくれする月夜の下で酒宴は続いた。後片付
けを終えた星野さんが戻った時は中高年3人はすっかり万葉の世界に入り込んでいたのでし
だ。
          五 葉 山                          2003.10.13

登山口7:40〜畳石8:30〜避難小屋9:25〜山頂9:45〜日の出岩9:55〜避難
小屋(10:05〜10:45)〜畳石11:30〜登山口12:15
 翌朝、車内で一人寝ていた私は激しい雨音で目が覚めた。
あたりは真っ白な闇に包まれて、ここがどのような場所か皆目見当がつかない。
テントの撤収が終わる頃ようやく、雨は小降りになった。
 この五葉山は藩政の時代、伊達藩直轄の山で、檜、栂等の林産資源が豊富で重要な山であ
ったことから「御用山」と呼ばれ、後に五葉松になぞらえて「五葉山」
となったそうだ。
広い石のゴロゴロした道は、両脇に山ツツジが生い茂り、紅葉真っ盛りだ。花の咲く頃はさぞ
かし賑やかだろう。登山口の広い駐車場がそれを物語っているようだ。賽の河原を過ぎ、大き
な畳石付近はミズナラ、ウリハダカエデ、ダケカンバの黄葉が目立つ。畳石の鳥居をくぐると登
山道らしい急登に変わった。樹林の中は雨が気にならない。真新しい避難小屋に到着。脇に
は豊富な水場があり、南部鉄だろうか重い鉄の柄杓が置いてあった。私は乾いた喉に2杯の
水を一気に飲み込んだ。
日枝神社から、山頂までゴロゴロの平らな裸地、コースにはロープが張ってあ
った。今日のようなガスで一面覆われた時は、方向が判らなくなってしまうような広々したところ
だ。晴れていれば太平洋が一望できるだろう。一瞬ガスの切れ間にボヤッと海岸線が見えた
ようだった。低山ながら、五葉松が広がる山頂はガンコウラン、ツガザクラなど夏は高山植物
が咲き揃うのだろう。
 山頂から10分の日の出岩は、ヒノキ、アスナロ等の苔むした原生林に囲まれ3本の大きな奇
岩が寄り添うように高く聳えている。ここからは晴れた夜、いか釣り舟の漁火が見えるそうだ。
 避難小屋に戻り軽い昼食を済ませ、登山口近くに降りた頃、雨はすっかり上がっていた。あ
たりの山々は真っ赤に燃えているようで、昨夜はこんなに素晴らしい場所で一夜を過ごしてい
たのかと改めて感動した。

  



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